オーストリアでは、5月19日のロックダウン緩和で、室内の催し、フィトネスセンター、レストランやカフェが再開しました。この中から、音楽関係、特に国立歌劇場(オペラ)中心で、今までと、少し今後について、私が分かっている、また、面白いと思っていることを書いてみますね。 (下の写真はオペラの内部、観客席の一部です。)
コロナの状況が悪くなって、いったい、どのくらいの期間、オペラが閉鎖していたか?
2020年3/10からシーズン終わり6/30の全公演,
2020年7/1から9/6までは夏休み(これは普通),
2020年11/3から2021年5/18の全公演。
さて、こういった期間、音楽分野では、どういう活動があったかです。劇場やコンサート会場が閉鎖され、人々も家にいるべきだったので、テレビやインターネットが盛んに使われました。この中に、こちらのNHKのようなテレビ局ORFが始めた「 Wir spielen für Österreich (英語We play for Austria)」という企画があります。去年春の最初のロックダウンはショックで、みんなが家にとじ込もらねばならなかった時に、うれしかったです。スタッフや出演の歌手や演奏家たちはみんなコロナのテストを受けて、出演料無料で歌やメッセージを送ってくれました。
この番組は、1回目が国立歌劇場、2回目がフォルクス・オーパー、次がミュージカルのメンバーと回を進めていきました。ミュージカルは翌年まで計3回このコンサート番組を放送しましたが、毎回のように番組の続きにミュージカル「アイ・アム・フロム・オーストリア I am from Austria」が放送されました。このミュージカルの主題歌は、最初のロックダウン期間、夕方の見回りのパトロールカーが街に流して「みんな頑張ってね、家にいてくださいね」を促した曲です。
ちょうど2020年はBeethovenの生誕250周年で、いろいろな企画が用意されてたのに......という、残念な年でした。彼のただ一つのオペラ「フィデリオFidelio」が初演された劇場、テアター・アン・デァ・ウィーンTheater an der Wienでは、この演目の新演出を準備練習しているうちにロックダウンになり、私も、あぁ残念と思いました。これが、無観客で上演、録画されたのが、前述の「We play for Austria」で放送され、その後、「無観客上演」がどんどん放送されました。
「音楽の都」ウィーンで目立つのは、オペラやバレエの国立歌劇場と、コンサートの楽友協会ですが、去年秋(9月)、久しぶりで(オペラは12年ぶりくらいでしょうか)、どちらも監督が交代しました。どちらの新監督も、いきなりコロナ対策本部長になったわけです。コロナは夏にはいい状態になっていたので、秋の初めは、厳重注意の元、観客数を減らして、上演、演奏ができました。ここで面白かったのは、国立歌劇場の立見への配慮です。この劇場は椅子席1700強に対して、立見が約550と多いのですが、コロナ対策で間隔を開けても、立見で人が動けては困る。立見客を固定するためでしょう、なんと、立見に立派な椅子をゆったり置いてくれたのです。2人で買えば2人並んでその両サイドを開ける、1人で買えば右も左も空席にする、ゆったり「座れる立見」にしたのです。
これは最上階ギャラリーGalerie、むかって右の2列が立ち見です。
次は、平土間Parterre、左下が立見の1列目です。
これも、大変なコロナ時だけのプレゼントですよね。もちろん購入には、安全対策が厳重にされています。さて、国立歌劇(オペラ)の新監督が、就任が決まった時から言っていたのは、「開かれたオペラ」、その一環として特別たくさんの新演出が、2020年9月からのシーズンに用意されました。新シーズンは、初日からプッチーニの「蝶々夫人」で幕開き、翌月にモーツァルトの「後宮からの逃走」とチャイコフスキーの「エウゲニ・オネーギン」と新演出を3つ、他も順調にやったところで、11月3日からのロックダウンです。まだまだたくさんの新演出を用意していたし、いくつか新演出でないレパートリーでも、特別に配役のいい公演もありました。これらが、先に書いたテレビ局ORFの「We play for Austria」とインターネットを通じて、無観客で放送されていきました。覚えているだけで、以下の通りで、カッコ内は主要な歌手です。
・「ウェルテル」(ベチャラ)
・「トスカ」(ネトレプコ)
・「パラの騎士」(セラフィン)
・「こうもり」(大晦日の恒例)
・「フィガロの結婚」(以前のいい演出の再演)
・「カルメン」新演出(ベチャラ)*
・「椿姫」新演出(フローレス)*
・「パルシファル」新演出(カウフマン,ガランチャ)
・ グノー作曲「ファウスト」新演出(フローレス)
コロナの影響で都合で歌えない歌手も出るのですが、*印は超大物の歌手が代役で歌ってくれて、大きな幸いになりました。
(一方、オーストリアの宝、ウィーン・フィルハーモニーが秋に日本で演奏ができるという特別な配慮がありました。また、ニューイヤー・コンサートが無観客で放送されたことも記憶に新しいです。ウィーン・フィルのロックダウン時の定期演奏会はすべて、無観客で演奏、録画されているはずです。)
ここまできたところで、5月19日のロックダウン緩和です。急な再開とお祭り気分か、国立歌劇では、5月いっぱいはずいぶん演目変更もありました。シーズン終わりの6月はほぼ予定の演目です。観客数は、今のところ1000人まで、次の緩和で1500人までの予定らしいです。
また、次のシーズン(9月初めから翌年の6月末まで)のプログラム発表は、例年4月なのですが、今回は遅くて、先日6月3日でした。あぁ、コロナにちゃくちゃく収まってもらにたいです。
ミュージカルは、専用の劇場が2つありますが、「キャッツ」と「ミス・サイゴン」で再開です。
さて、文化に強いアルテARTEというヨーロッパ全体のテレビ局が、明日(6月6日)に「ルートヴィヒ・ヴァン(すなわちベートーヴェンのこと)」という番組を用意しています。ベートーヴェンの全てのの交響曲を、10時間以上かけてライブで放送します。それぞれ、9つの街から、違うオーケストラ、それぞれの指揮者で、です。1曲目はもちろん生まれ故郷のドイツのボン、巡り巡って、最後、9番「合唱付き」はウィーンからです。こちらの放送局ORFも、もちろんこれを「We play for Austria」でライブ放送します。10時間以上の番組なので、ちょうどウィーンは夕方のゴールデンタイムです。会場はベルヴェデーレ宮殿のお庭、ウィーン交響楽団、指揮者は女性です。主な歌手は、もう何回か名前を書いたベチャラ(テノール)、ニルンド(ソプラノ)の予定です。(先週の音楽番組の後で、無料券受付中って言ってたの、これだったのねぇ.....と。)放送は明日。9つの街から。ウィーンは最後の街で、もちろんベートーヴェンが主に活動して亡くなった街とはいえ、花を持たせてもらえて、うれしいです。楽しみ。 (井上 元子)