サリエリのオペラ「フビライ・ハン」のオリジナル版初演

2024/04/12

音楽 劇場 雑記

この4月前半、アントニオ・サリエリ作曲のオペラ「フビライ・ハン」が、ミュージアム・クォーターで上演されています。

 

 ・作曲されたのは1788年なのに、今頃、オリジナル・イタリア語版の世界初演になったこと。しかも題名からしておもしろい「フビライ・ハン」です。

 

 ・そろそろミュージアム・クォーターでの公演も終わること。 

 

後のテーマから始めましょう。この歌劇の団体は、テアター・アン・デア・ウィーンTheater an der Wienですが、劇場の修復のため、2年間、ミュージアム・クォーターMuseums Quartier MQに仮住まい、一番大きなホールを使っています。その2年間も6月で終わろうとしています。

ここは約300年前のバロック様式の建築で、上の写真の部分にホールが入っています。

さて、作品についてです。作曲者のアントニオ・サリエリAntonio Salierisは、モーツァルトの先輩にあたり、このオペラを作曲した1788年には、ウィーンの皇帝の下で楽団長に任命されています。皇帝は、女帝マリア・テレジアの長男、ヨーゼフ2世です。

 

ところが、サリエリのオペラ「フビライ・ハン」は初演の直前に、政治的な理由で突然中止されます。ロシアの女帝エカテリーナを批判する内容が含まれていたからです。当時、オスマン・トルコと戦っていたオーストリアは、ロシアと同盟していて、ロシア批判は避ける必要がありました。

 

それでオペラ「フビライ・ハン 」は200年と忘れられてしまい、やっと最近、1998年にドイツ語版で、そして今回、作曲から236年経って、オリジナルのイタリア語版での世界初演になりました。サリエリに詳しい指揮者Christophe Rousset とオーケストラLes Talens Lyriques、合唱はいつもの素晴らしいシェーンベルグ合唱団Arnold Schönberg Chorです。

 

さて、今回のベルガーMartin G.Berger氏の演出はおもしろくて、サリエリ自身が舞台に登場します。

舞台が始まってしばらくすると、サリエリが現れて、政治的配慮で公演中止だと伝え、皆、落胆。。。その後、2022年に飛びます。主人公は中国の(モーツァルト・クーゲルならぬ)フビライ・クーゲルの製造者。伝統的な丸いチョコレート菓子で大会社だけど、最近、売り上げが下降しており、改革が必要。若い人のアイデアも入れて、デザインも新しくして・・・これらをオリジナルの筋の上に乗せます。もちろんお話は喜劇。さて、休憩時間後は状況が一変、2022年2月で、戦争がはじまります、ウクライナで。。。また、上演がストップします。サリエリが「あの時は皇帝が中止を命じたけれど、今度は世論か、ロシアは戦争をして、中国は支援している!!」と。でも、歌手たちと、「このオペラの中にいろいろな国の登場人物がいるように、世界にはいろいろな人がいるのだし、これは喜劇なのだから、最後まで上演しよう!!」と。最後に、フビライ・クーゲルは販売も伸びて、それぞれの若いカップルは結ばれて、世界は平和に!!

 音楽はスマートで耳ざわり良く、 女性のコロラトゥーラなど、変化に富んでいます。

個人的には(いつもは思わなかったのに)、フビライ・ハン がぺらぺらイタリア語をしゃべるのも楽しかったです。気分よく終わった後、ホールの出口で、本物のフビライ・クーゲルももらえました。新デザイン、デラックス・バージョンのシャンパン味です。

 

ウィーンで忘れられたけれど、ウィーンでオリジナル初演にこぎつけて、 本当に良かった!!

                       井上 元子